対災害用車両 開発記録②
クルマの床は四角じゃない。異形の床との格闘

双輪自動車が進めている「対災害用車両改造プロジェクト・PJ6」。
このプロジェクトの根っこにあるのは、とてもシンプルな思いです。
災害で困ったときに、クルマを通じて少しでも誰かの助けになりたい。
私たちは長年、自動車の整備や修理に携わってきました。
では、災害への備えがこれまで以上に求められる中で、
「クルマの専門家である私たちだからこそ、できることはないだろうか?」
そう考えたことから、このPJ6は始まりました。
そして考え続けた結果、たどり着いた一つの答えが、
「今ある車両を、対災害用に改造すること」
でした。
災害のためだけに特別なクルマを所有するのではなく、普段使っているクルマに、電源・冷暖房・就寝スペースなど、災害時に役立つ機能を加えていく。
いつものクルマが、もしもの時には自分や家族、そして仕事を支えてくれる。
そんなクルマを、もっと身近なものにできないか。
その可能性を探るため、現在、第1号デモカーの日産セレナを実際に改造しています。
今回は、その開発記録の第2回。
テーマは**「床」**です。
前回は、セレナをほとんど裸の状態にしました。
第1回では、まずシートや内張りを取り外しました。

そして車体の鉄板が見える状態にしたうえで、防振材と断熱材を施工。
災害時にエンジンを切って過ごすことを想定し、外気温の影響を少しでも抑えること。
そして雨の日の車中泊などで意外と気になる、鉄板に当たる雨音を軽減すること。
完成してしまえば見えなくなる部分ですが、車内で少しでも身体を休められる環境をつくるための、大切な下準備です。
第1回の記事はこちらです。
そして今回は、いよいよその上に**「床」**をつくっていきます。
クルマの床なんだから、板を切って敷けばいい?
施工前は、床づくりについて多少そんなイメージもありました。
ところが、第二列目のシートを取り外したセレナの床を見てみると――。
全然、平らではありません。
【写真:2列目シートの取り外し跡】

車体には凹凸があります。
左右にはタイヤハウスが張り出しています。
シートを固定するための取付部分もあります。
さらに、側面は直線ではなく複雑な曲線になっています。
当然ですが、クルマは「床板を敷くため」に設計されているわけではありません。
ここにきれいな床をつくろうとすると、
単純に縦○cm×横○cmと測って板を切るわけにはいかない。
ここからが、今回の「床との格闘」の始まりでした。
一番苦労したのは「寸法取り」。
今回の床施工で、スタッフが特に苦労したのが床材の寸法取りでした。
四角い部屋なら、縦と横を測ればある程度形になります。
ところがクルマの場合は違います。

場所によって幅が違う。
途中から曲線になる。

出っ張っているところもあれば、へこんでいるところもある。
一か所を合わせれば、別のところが合わない。
【写真:シート跡の凹みを木材で埋めた】

何度も確認しながら、
「ここはあと何ミリ?」
「この曲線はどう取る?」
「こっちを削ったら反対側は大丈夫か?」
と、一つひとつ形を拾っていきました。
数ミリの違いでも、実際に車内へ入れてみると意外と大きなズレになります。
測る。切る。合わせる。また確認する。
地味ですが、この繰り返しです。
【写真:床どこの木材加工】

【写真:第三列シート取付位置の穴を調整】

【写真:第三列シートのはまり具合の確認】

なぜ、そこまでして床をつくるのか。
もちろん、見た目をきれいにするためだけではありません。
PJ6では、この床の上にこれから、
・人が座る場所
・横になって休める場所
・電源設備
・テーブル
・さまざまな災害対策装備
を組み上げていきます。
つまり床は、
これから載せるすべての装備を支える「土台」
になります。
さらに、災害時には車内で数時間、場合によってはそれ以上の時間を過ごす可能性があります。
傾いていたり、大きな段差があったりする場所では、落ち着いて身体を休めることもできません。
だからこそ、派手な装備を取り付ける前に、まずはきちんとした床をつくる。
住宅でいえば「基礎」に近い工程なのかもしれません。
もちろん、床材の裏には断熱材(3M社のシンサレート)を入れていきます。
【写真:床材裏の断熱施工】

木材を入れて、床の高さをつくる。
そこで、まず床面を全部、ひっぺ剥がします。
【写真:床面を剥がした状態 凸凹が多いですね💦】

それから、床板が水平になるようにポイント、ポイントに高さを調整した木材を置いていきます。
【写真:黄色の木材で高さを調整】

このあと施工するベッドや配電盤を安定させるための必要な作業です。
クルマ本来の床の凹凸を考えながら、
どこで床を支えるのか。
どの高さに合わせるのか。
この後に取り付ける設備に支障がないか。
完成後にはほとんど見えなくなる部分ですが、こうしたところを一つずつ考えていきます。
【写真:ようやくできた床材に化粧板を施工】


第1回の断熱材もそうでした。
今回の床下地もそうです。
PJ6をつくっていて改めて感じるのは、
完成したときに見えなくなるところほど、実は手間がかかる。
ということです。
「普通のクルマ」を使うからこその難しさ。
一からキャンピングカーとして設計するのであれば、最初から設備を載せることを考えた車内設計ができます。
しかしPJ6が目指しているのは、そこではありません。
私たちが挑戦しているのは、
普通に街を走っているクルマを、災害にも備えられるクルマにすること。
です。
だから当然、簡単にはいきません。
セレナにはセレナの形があります。
別の車種なら、また床の形も違います。
今回、一台を実際につくっているのは、単にデモカーを完成させるためだけではありません。
「一般的なクルマを対災害用に改造するには、何が難しいのか」
を私たち自身が一つずつ知るためでもあります。
やってみて初めて分かることを蓄積して、次の一台をもっと良くする。
それもPJ6の大切な目的です。
まだ、私たちも勉強中です。
第1回でも書きましたが、PJ6にはまだ完成した「正解」がありません。
私たちだけで完成させるつもりもありません。
実際に災害を経験された方。
車中泊をされたことがある方。
仕事柄、災害時にも現場へ向かわなければならない方。
そんな皆さんの経験を、このクルマに入れていきたいと思っています。
例えば、
「車内で寝たとき、床のこんなところが困った」
「こういうスペースがあれば助かる」
「災害時なら、こんな使い方をすると思う」
そんな小さなことでも構いません。
ぜひ私たちに教えてください。
皆さんからいただいた意見を参考にしながら、
「本当に災害時に役立つクルマとは何か?」
を一緒に考えていきたいと思います。
次回は「天井照明」です。

床ができてくると、少しずつ「クルマの中で過ごす空間」らしくなってきます。
そして次に取りかかったのが、天井のフロア照明です。
照明器具を取り付けるだけなら簡単――。
……と思ったのですが、ここでもセレナならではの問題が出てきました。
天井トリムには凹凸があり、さらにその裏にはエアコンのダクトが通っています。
「できるだけ平らなところに付けたい。でも、付けたいところに付けられない。」
第3回は、
PJ6 対災害用車両 開発記録③
「明かりを付けたい場所に、付けられない。天井照明との格闘」
をご紹介します。
普通のクルマを、災害に備えるクルマへ。
対災害用車両改造プロジェクト「PJ6」。
災害で困ったとき、クルマが少しでも誰かを助けられるように。
完成まで、ぜひ一緒に見守ってください。
